交通外傷や転落外傷、脳卒中などの疾病により脳に損傷を受けた場合、一見平常に戻ったように見えても、ご家庭や社会に復帰されてから初めて、ご家族などから「なまけものになってしまった」とか「すっかり人が変わってしまった」と気づかれることがあります。
そのような患者さん方は、身体の症状がないか軽いにもかかわらず、社会活動や日常生活の場に戻って初めて、事態が深刻であることに気づき診察を受けられると、その原因が『高次脳機能障がい』であったと判ることがあります。
『高次脳機能障がい』というと「なんだか難しい障がいみたいだなあ」と思われるもしれませんが...高次脳機能障がいとはつまりは認知障がいのことと考えてよいと思います。
日常生活を送るために必要な記憶、注意、言葉、考える力、判断する力。
わたくしたちは自分でもそれとは意識せずこれらの力を駆使して日々、環境に適応し、新しい問題に対応しています。
さて、ここでちょっと思い出してみてください。わたくしたちが赤ん坊のときには、こうした社会生活を送るために大切な認知機能は誰一人として持ってはいませんでした。
この認知の機能はわたくしたちひとりひとりが、これまで生きてきた過程において、それぞれに様々な経験を経る中で獲得してきた機能であるとも言えると思います。
ですから、高次脳機能障がいと一口に言ってもその内容や問題点は個々人あるいはその患者さんをとりまく状況によっても異なってくることを、ご想像いただけるのではないでしょうか。
ところで、「私は何も病気やけがはしたことなどないけれど、物忘れなんてよくあるわ?」と思われる方もあるかもしれません。
「それは、もしかすると私も高次脳機能障がいなのかしら?」~いいえ、それはちょっと違うようです。
なにかの病気やけがをきっかけとして、その後から、家庭や社会活動において、とりわけ他者とのコミュニケーションをとろうとする際に病気の前と後とでだいぶ違ってしまっているということが、この障がいの特徴です。
従来、このような患者さん方は障がいであるということが判かりにくかったために、本来受けることができるはずの医療から福祉までのケアを提供されずにいたということで、近年、社会的な問題として取り上げられるようになりました。
そこで、福祉行政では、この脳卒中や頭部外傷などの原因疾患に基づく認知障がいを、『高次脳機能障がい』と名前を付けて整理し、適切な診断を行なおうということになりました。
まず、この障がいを持たれる方々を発見し、医療~福祉サービスを円滑に受けられるようにすることを第一の目標としています。